神経伝達物質および平滑筋弛緩因子としての硫化水素

摘要

硫化水素といえば,温泉場で臭うあの卵の腐敗臭がまず思い起こされるであろう.硫化水素は非常に強力な毒ガスで,その毒性はシアンに相当する.硫化水素の毒性がはじめて報告されたのは約300年前のことで,それ以来,その毒性については多くの報告がなされてきたが,生理作用があろうとは考えられていなかった.ところが最近,この毒ガスが生理活性物質であるらしいことがすこしずつわかってきた.硫化水素の毒性を研究していた3つのグループが,脳内に硫化水素が存在することを発見し,これがきっかけとなり我々が硫化水素生産酵素を同定するに至った.この酵素による硫化水素の生産はカルシウム/カルモデュリンによって制御されており,神経細胞の活動に伴って生産が増加する.硫化水素によってNMDA受容体が活性化され,記憶のモデルとして知られているLTPに影響を及ぼす,また,シナプス後電位やコルチコトロピン放出ホルモンを制御する,我々は平滑筋において,脳とは別の硫化水素生産酵素を同定した,硫化水素は.一酸化窒素(NO)との相互作用により平滑筋を弛緩し,ATP依存性Kチャネルを活性化し過分極を起こす.これら最近の知見について概説してみたい.