身寄りのない高齢者の終末期の 治療方針を考えるときに

摘要

90歳，男性，S氏. 妻とは死別，子どもなし.家族は他県に重度認知症の兄が1人.既往歴：1年前に脳梗塞で入院治療.高血圧と心臓弁膜症で大学病院外来通院中. 住居型高齢者施設に入所中.介護保険は要介護2の認定.歩行器歩行.身の回りのことは ある程度自分で可能.認知機能も脳血管障害による血管性認知症と診断されているが，簡単 な判断や意思表示は可能. 現病歴：〇月口日17時に夕食をすませ，19時頃に残ったミカンを食べていたところ，急に せき込hで息苦しそうにしているS氏に施設職員が気づき救急車を要請した. 誤嚥性肺炎からの呼吸不全に陥り，同時にたこつぼ心筋症も発症.集中治療室での治療で 呼吸循環動態は回復した.しかしその経過中脳梗塞を再発し，嚥下機能も増悪，経口摂取が 困難となった.急性期治療の後，亜急性期病棟で，身体リハ ビリテ一シヨンや摂食嚥下訓練，口腔ケア，薬剤調整など実施するも，十分な改善傾向はみられず，精神活動性も低下し，本人からの意思表示も不安定となり正確な意思の確認も困難となった.呼吸不全状態は解消されず酸素療法が継続.経口摂取はいわゆる「お楽しみ嚥下」が精いっぱいで，しかも重度認知症ときどき発熱を繰り返す状態であった.