純チタン薄板における微視的な不均一変形が表面あれに及ぼす影響に関する結晶塑性有限要素解析

摘要

軽量金属である純チタンは，比強度·耐食性·生体適合性に優れ，航空宇宙産業や生体医療などの分野において主要な金属材料として最も注目を集めている材料の一つである．また，そのような諸特性を有するため，今後更なる使用量の増加が想定される医療分野を中心に変形挙動の解明が期待される材料でもある．しかしながら，純チタンは難成形加工材料である．特に，変形によって材料内部に発生する微視的な不均一変形挙動は，純チタン製品の高精度化，小型化が要求される部品の自由表面の美観，表面性状，疲労強度そして摩擦潤滑特性に大きな影響をおよぼすことが広く知られている．純チタンは今後の省エネルギー化社会において大きな役割を担う材料であり，塑性加工に伴うチタン材料の表面あれと結晶粒の微視的な変形挙動の関係性を明らかにすることは，最適な製品成形の実現に向けて解決すべき喫緊の課題であると考えられる．純チタン以外の諸材料においては，表面あれと変形に関する様々な検討が行われてきたが，著者の知る限りにおいては，純チタンの表面あれを引き起こす原因についての十分な検討が行われているとは言い難い．多田らが純チタンの引張変形時における表面あれを検討した純チタンと同じ六方最密充填構造を有するマダネシウム合金の金属表面あれについて，小坂田らが行った種々の金属材料の圧縮試験結果から，表面あれはすべり系の数が少ない金属ほど増加傾向であることが報告されている程度である．