影の時空的操作による身体表現創出に関する研究

摘要

筆者らはこれまで，自身の影の色や形を変容させることで，多様な身体表現が創出することを示してきた．その際，体験者の振舞いや感想等から，表現する行為を通じて身体感覚がダイナミックに変化することが明らかになっている．例えば，身体の運動方向に影を伸長させる「ゴム影」（図1(a)）を体験すると，影の伸長方向にあたかも身体が伸びたような身体感覚が生じるという感想が多く述べられ，自身の影の形状をポリゴン形状や骨格形状の影に変形させると，体験者の行為が，前者では直線的な硬い動き（図1(b)）に，後者では柔軟な動きへと無意識のうちに変化（図1(c)）する様子が観察されている．以上のような現象は，自身の影を操作的に変容させることで，行為の中で通常とは異なる身体感覚が生じることや，通常とは異なる身体感覚が生じることで行為そのものが変化するという，行為と身体感覚との表裏一体的な関係を想起させ，同時に，その際の行為と身体感覚の関係に「ズレ」を導入するメディアとしての影のはたらきが示唆されるのである．以上を踏まえ，本研究では，行為と身体感覚の関係性，及びこの関係性にはたらきかける影の特性を明らかにすることを目指す．そこで，はじめにどのような身体の影の特徴が，行為と身体感覚の間にはたらきかけを導入することを可能としているのか検討することにした．さらに今回は行為を通じて自身の影の遅延時間が動的に変化する影を開発した．そして，このような影の提示によって，どのような身体感覚が生じるか，またどのような現象が見られるかを，一般展示デモを行った際に観察された体験者の様子などを交えて報告する．