公害と闘う巨星-戒能通孝-

摘要

都立大学の法経学部教授会．1964年春3月のそれは，在職十年に及んだ戒能教授にとり最後の出席だった．終わって退席する同教授は，一緒になった私に「僕は来月から弁護士だよ．君の相談ごとでも今度は君から報酬を貰うから」と冗談めかして語る．同じ学部でも法律?経済と学科が違い迂闘にも深い事情を知らぬまま，私はその場をただハ、一と聞き流してしまった．後で知ったことは，岩手県の奥深き小繋山の入会権裁判に弁護士として全生命を捧げるべく，戒能さんは安定した教授職を定年7年も前のこの日に投げ打ったのだ．同教授の辞職から7年後，私自身も思いがけず同じ大学を辞し，美濃部革新都政に身を投じることとなった．私の場合は続いて都庁の局長職に就いたのだが，それでも大学定年のまだ相当前とて，清水寺の高い舞台から飛び降りる気持ちであった．ましてあの当時は小繋をめざしての辞職である．後に名著『小繋事件』（岩波新書1964年）を読むにつけ戒能先生の気迫こもる教授辞職に考え及び，頭が下がるのみだ．さらにこの弁護士時代，先生は世間を揺るがした金嬉老事件（1968年2月）にも弁護団長として活躍する．