アダマンタン骨格を有する高分子の精密合成

摘要

アダマンタン（トリシクロ［3．3．1．1~(3，7)］デカン，C_(10)H_(16)）は4個の3級橋頭炭素と6個の2級炭素からなる三環式の飽和炭化水素化合物であり，正四面体の高い対称性を持つ（図1A）。 そのtetrahedralな対称性から，大きな「炭素原子」と例えることのできる3次元の炭素骨格は，ダイヤモンドの結晶格子に相当し，分子内のC－C結合長は1.54A，C－C－C結合角はいずれも109.5°をとり，歪みが極めて小さく熱安定性が高い。分子全体の形状は球に近く，結晶の格子間力が弱いことから，高い昇華性を示すことが知られている。 アダマンタンは石油中に含まれる微量成分として単離され，初めてその存在が確認された。 その初期の合成においては，マロン酸エステルを原料として多段のステップにより，低い収率ながらもアダマンタンが得られている。現在ではアダマンタンは，酸性条件下におけるテトラヒドロジシクロペンタジエンの異性化反応により，工業的な規模で生産され（スキーム1），さらに多くの誘導体が合成されている。従来，石油C5留分の中でも，利用価値の低かったシクロペンタジュンの有効利用という観点でも，「アダマンタン化学」の広がりには期待が持たれる。誘導体の中でも，単純な構造の1－アミノアダマンタン（図1B，アマンタジン）に薬効があり，その塩酸塩がシンメトレル~Rという商標で，インフルエンザやパーキンソン病の治療に使用されていることは興味深い。