高圧合成Ⅱa型ダイヤモンド結晶より作製した高硬度圧子

摘要

ダイヤモンドは，その卓越した硬さを利用して，切削工具や耐摩工具のほか，超高圧アンビルや硬度測定用圧子などに広く用いられている．ダイヤモンドをこのような用途に有効に利用するためには，ダイヤモンドの機械特性を十分理解しておくことが必要である．その機械特性に関する研究はこれまで数多く行われており，試料には天然ダイヤモンド結晶がよく用いられていた．しかし，天然ダイヤモンドには，多様な形態の欠陥や不純物が多く含まれており，これらは機械特性に少なからず影響を及ぼす．一方，ダイヤモンドが熱力学的に安定な高圧高温条件で育成される合成ダイヤモンド単結晶は，天然ダイヤモンドよりはるかに結晶性に優れ，品質も安定している．特に，窒素不純物を制御した高純度なⅡa型と呼ばれる合成ダイヤモンド結晶は，不純物による結晶欠陥やひずみが非常に少なく，現存するダイヤモンドの中で最も完全結晶に近いものである．この合成Ⅱa型ダイヤモンドを調べることで，これまで不純物や欠陥の影響に隠れていたダイヤモンド本来の特性が見えてくることがある．われわれは，このダイヤモンドのヌープ硬度異方性を調査したところ，（001）面においては天然ダイヤモンドで一般にいわれている硬度異方性とは異なる傾向を示すことを見いだした．すなわち，これまで（001）面上で最も柔らかいとされた〈110〉方向のヌープ硬度が，合成Ⅱa型ダイヤモンドにおいては最も硬く，それも圧痕が形成されないほど非常に変形抵抗が高いことがわかった．これは，すべり変形や微小クラックの起点となる不純物や欠陥が非常に少ないために起こる現象である．そこでわれわれは，この合成Ⅱa型ダイヤモンドより，上記の非常に硬い方位に合わせてヌープ圧子を作製した．そして，この圧子は極めて強じんで，ダイヤモンド結晶の硬度測定においてもほとんど破壊しないことがわかった．ここでは，この合成Ⅱa型ダイヤモンドの特異な（ダイヤモンド本来の）硬度異方性の概要と，この非常に硬い方位に合わせて作製した高硬度ダイヤモンド庄子の性能について紹介する．