言葉の意味のデジタル処理とパターン認識－正しい言葉で正しく思考した記憶が抽象概念の意味となる

摘要

筆者は，ヒト音声言語はデジタル通信であり，デジタル符号の優れたS/N（信号対雑音）比特性によって符号語の数が3～4桁も増加し，初めて聞くメッセージでも誤りなく聞き取ることができる「聞く」オートマトンを獲得して文法による二重分節化を実現したことを指摘した．さらに脳内にはアナログな五官の記憶のほかに，ウェルニッケ野を符号化器としてデジタル言語記憶が特定のタンパク質によって符号化されて記録されている可能性を指摘した．イエルネは，神経システムは，ひとつひとつの神経細胞が記憶をもち，世界を二分し，二元論的な判断を下して，その結果を送受信する神経細胞ネットワークであるという．言葉の意味や概念が何かという問題は，言語学でも認知科学でも謎のままであるが，この神経細胞の作用ではないだろうか．具象概念は言葉と五官の記憶群の神経論理回路による接続である．抽象概念の意味は，我々が脳内で行なう思考や論理操作の結果がひとつひとつ記憶され，それが体系化して構築されるのではないだろうか．