漢字認知課題における脳波変化に関する検討

摘要

漢字は日本語に特有な言語的特徴であり脳内での処理メカニズムについては興味が持たれる．症例研究から左側頭葉後下部が漢字に関係すると報告されており，近年のニューロイメージング研究において健常者でも確認されるとともに，左後頭葉下部についての報告もある．しかしこれらの研究では処理時間については検討されてこなかった．そこで，動的な漢字処理について検討するために，6人の右利きの被験者の事象関連電位（ERP）を測定した．漢字識別課題において既知漢字，未知漢字，偽漢字の3種類の文字をランダムに提示した．その結果，単語認知の指標とされるERP成分（N400）が本実験においても出現し，脳波の測定においても漢字の認知過程が測定できることを確認した．ERPに独立成分解析（ICA）を適用した結果，後頭葉に位置する成分では有意な差が見られなかったが，左側頭葉後部に位置する成分では有意な差がみられ，刺激提示後約270msから強く活性化していることが明らかになった．このことから後頭葉では漢字特徴の分析が，左側頭葉後部では漢字の識別処理が行われていることが示された．漢字認知過程には図形の特微分析と識別処理の2段階があり，ニューロイメージング研究で報告されている領域に対応していることが示唆された．