生き物の不思議：凍結状態で生きる植物

摘要

野生の植物ばかりでなく，多くの栽培されている植物にとっても，寒冷気候に適応する能力の大小は重要な意味を持つ．地球規模での気候変動が進み，全球的には平均気温の上昇が確実に見られるが，地球上を局所的に見ると，様々な異常気象が頻発していることも事実である．局地的寒波の到来，既に芽吹いた後に襲来する春先の異常低温，氷点近辺で起こる雨の氷結，局地的な豪雪など，世界各地で見られる異常気象による被害も膨大な額に上る．また，私達が食料としている作物の寒冷適応能力を1℃でも上昇させることが出来れば，生産量の増大や耕作不適地を利用した農地の拡大も可能になる．このようなことから，私達は，様々な植物や植物由来の細胞を用いて，凍結傷害が発生する機構やその修復機構，さらには，氷点下の温度に適応して生きる能力を獲得する分子機構を理解すべく研究を続けてきた．本稿ではその一端を紹介し，読者の方に植物が持つ不思議な世界の一つを楽しんでいただきたい．