「この素材と向き合つてどこまで行けるか。そうやつて榭を作つてきました一

摘要

盆栽をやりながら、やきものを嗜む趣味家はけつして珍しくない。盆栽にはまるほど鉢へのこだわりも強くなるのが普通だから、好みに合った鉢を自らの手で焼くのはごく自然な流れといえる。だが、芸術という意味での「陶芸」といえるレベルまで質を高めた作品を生み出せる盆栽の趣味家となると、その数は格段に少なくなる。今回訪ねたのは、そんな数少ない陶芸家でもある趣味家のもと。地として大いに栄えた飯能市。戦後、国内産の木材需要の落ち込みとともに繁栄は過去のものとなつたが、経済的豊かさとそれに伴う文化の香りは今もなお、飯能の地に色濃く残されている。所々に古い家並みが残され歴史を感じさせる市街地にお住まいの岸田卓三さんも、当地で代々機織物業を営んでいた旧家の生まれ。戦後しばらくまであつた木材景気により栄えていた町の様子をよく覚えていると話す。