Overview of the Current Practice of Obstetric Anesthesia in the USA ：アメリカ臨床留学の現場から（3)

摘要

約40年間における米国産科麻酔学会（SOAP) を中心とした産科麻酔への貢献により，母体の死亡率は毎年減少しており，今日，アメリカにおいてお産とは，ストレスのない，痛みのないだけにとどまらず，妊婦とその家族にとっては人生における最大の喜びとして定着している。区域麻酔を用いた無痛分娩は，全米の産科分娩施設において一般的になっており，使用率は70-99%に及ぶ。2， 3年前まではこの硬膜外麻酔の開始時期は頸膣拡大4 cmとされていたが，現在ほとんどの施設では，分娩に入った患者であれば，いつでも開始できるとされている。早い時期に無痛分娩を開始することにより，帝王切開率が高まる，器械分娩率カs増加するなどの影響はない。硬膜外麻酔などの区域麻酔における麻酔薬の胎盤移行は微量であり問題ではなく，区域麻酔による母体の生理学的変化のほうに着目すべきであるとされている。事実，区域麻酔は，母体の低血圧，発熱の発生， 分娩第二期の時間延長，ォキシトシンの投与，器械分娩の必要性を増加させることは証明済みである。これらの影響が，区域麻酔が児にとって悪い影響を及ぼす麻酔法としで認識される要因であるせ,児の分娩としての結果に影響はない。むしろ分娩痛は図に示すようなさまざまな影響を母体に与えることは以前より知られており，これらの変化は児を危険にさらす。その一方，効果的な鎮痛によりこれらの変化を回復させることが可能である。近年の産科麻酔領域における大きな成果を挙げれば，麻薬の局所麻酔薬への添加により，患者の満足度を大きく上げたことである。また麻薬の添加はべ一スとなる局所麻酔薬の濃度を以前の使用濃度0.25%から0.0625%まで低下させ，それに伴い硬膜外による運動神経麻痺の問題点を解消し， 器械分娩の発生率を低下させた。また，脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔（CSEA) は分娩における区域麻酔法として，最近10年の間に急激に普及した。その理由は，CSEAの脊髄 くも膜下麻酔がもたらす，鎮痛効果の即効性と確実性である。また硬膜外麻酔単独使用と比較して，CSEAは頸部開大を早めるという報告があり，われわれもCSEA使用後に分娩が急速に進むことを経験している。この分野に関するさらなる研究が必要である。