可視化技術と応用：変形·移動を伴う自由表面を有する流れ場とその可視化

摘要

ワイングラスを傾け口に運ぶ際，ワインはグラスの内壁を伝わり，いずれ口に入る．また，グラスをテーブルにしばらくの間置いておくと，ワインは重力に逆らって壁をはい上がり，いわゆる「ワインの涙」（図1）を形成する．身近に見られる現象を一例に挙げたが，本例に限らずこのように固体面上を液体が進む「濡れ」や，自由表面を有しながら変形·移動を伴う液膜あるいは液滴の挙動などは，身近に存在し，また一見単純に見えるが非常に複雑な物理を含有している．身近な例に限らず，このような問題は工業的にも幅広い業種において見られる．機械設計·開発時においては，要素間の潤滑や除熱など熱流体力学の問題は必然的に生起するため，考慮が不可欠な事象である．さらに当該熱流体現象は，国際宇宙ステーションや大規模プラントなどサブキロメートルオーダから，マイクロ·ナノロボットなどナノメートルオーダに至るまで非常に幅広い領域に亘るものであると同時に，各スケール間の相互作用も含めた複雑なものであると言える．我々のグループは，先ほど例を挙げた固体面上を変形しながら移動するような「濡れ」の問題，さらにそのような場合の流体挙動に注目して，特にセンチメートルオーダからサブミリ，サブマイクロメートルまでの現象の可視化を含め研究を行っている．本稿ではその一部を紹介するものである．