生命に学ぶシステムデザイン＆アーキテクチャ－慶應義塾大学21世紀COEプログラム「知能化から生命化へのシステムデザイン」

摘要

本拠点では，システムとしてのバランスを確保し，人間や環境との共生のメカニズムを裏付け，まったく新しいプロダクトイノベーションに結びつくようなシステム化技術に関する世界的拠点の形成を目的としている．環境や自然システムおよび人間とのインタラクションを可能とする21世紀工学の実現は，単に高度な機能だけでなく，外部および内部の環境とのインタラクションの原理原則を含んだシステムの設計情報をシステムそのものに埋め込むことによって初めて達成される．そのためには生命に学ぶ視点が重要である．生命体は，多目的·多入力多出力·冗長多自由度·非線形複雑系であり，人間や他のシステムを含む環境条件と一体化した生命体自体に複合的な処理を並列分散的に行うメカニズムが暗黙裡に埋め込まれているため，環境適応性，耐故障性，拡張性に優れる．このため，システム自体に問題への適応構造や環境との協調構造を複合的に埋め込むことを生命化と定義する．生命化に基づくシステムデザインアプローチのコンセプトを図1に示す．従来の単なる自律分散制御とは異なり，抽象度やカテゴリーの異なる制御系の協調構造をシステムに埋め込むことにより，非構造化環境においても適応能力の高いロバストなシステムを構築できる．また，単なるセンサフュージョンとは異なり，多チャンネルの受容機構を埋め込むことにより，複合的な環境適合制御を行うことができる．単なる設計最適化とは異なり，創発的·進化的なシステム設計方法を用いることにより，システムの身体に環境共生的な価値を埋め込むことができる．生命化とは，単なる自律分散制御·進化的設計·ソフトコンピューティング·機能複合化ではなく，それら機能主義的手法をツールとして用い，システムに多目的·多様入出力機構·協調構造·複合機能を具備させることによって，機械，建築，ロボット等のシステムに環境適合性·人間親和性·耐故障性·拡張性をシステムの構造として複合的に埋め込むための方法論である．本稿では，本拠点の活動と筆者らが携わってきた研究を紹介する．