マルチスケールから見た高分子の構造と物性

摘要

ナノテクノロジーがさまざまな物質科学分野に多大な影響を及ぼすキーテクノロジーであることを疑う人はいないだろう．今日，実に多くの種類のナノテクノロジーが世間を賑わせている．その中で我々は特に高分子材料のためのナノテクノロジー，高分子ナノテクノロジーに興味を持っている．中でもポリマーナノアロイやポリマーナノコンポジットは我々の日常生活でも重要なものとなりつつある．こういった高分子ナノ材料は基本的にナノメートルスケールで不均一であるから，それらを評価する手段もナノメートルの分解能を持ち，かつ不均一構造を可視化できるものでなければならない．我々は以下の3つのキーテクノロジーが開発されるべきだと考えている．1つめはナノスケール分解能三次元顕微鏡である．これはコンピューター断層撮影法(Computerized Tomography, CT)を併用した透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy, TEM)で実現の域に達していることは周知のことであろう．残りの2つはナノスケールの（特に力学）物性評価とスペクトロスコピーである．高分子ナノテクノロジーにおいては，三次元のナノ構造をもつ材料を如何にして作成·制御するのかということが問題になる訳であるから，まず構造が可視化されなければならない．そして構造の各部分に特化した物性測定がなされなければならない．また同じレベルの分解能で，化学種の同定も行われるべきである．本稿では3つのキーテクノロジーのうちの始めの2つについての我々の最近の成果について紹介する．