フランスの地理学者ピエール、グルーの経歴と彼の熱帯地理と農業の研究--M. ブリユノーによる評伝の要約--

摘要

グルー（Pierre Gourou）（1900－1999）の主著の訳書，『熱帯の地理一社会的経済的条件とその展望－』は1971年に刊行された古い本であるが，今でも熱帯の地理と農業を理解するための基本的な参考書であり，古書店の価格から見ても基本図書といえる．しかし，彼の活動は，おもにフランス語で発表されているのでよく知られていない．グルーは99歳でなくなるまで研究を続け，晩年に「稲作と文明」（1984）という著書も発表した．たまたま，筆者は，2004年にラオスで調査旅行中に，グルーから教えをうけた人と遭い，グルーの人柄や活動について聞いた．その後，別の機会に，ル、モンド紙東京支局の大友竜氏にグルーのことを聞いた．大友氏は農業や地理学にも深い知識をもっておられ，フランスのワイン産業の起源と発展を記述した訳書を最近刊行された．大友氏は，M．ブリユノー（Michel Bruneau）による数十ページにおよぶ「評伝グルー」を翻訳して筆者に寄せられた．この貴重な資料の活用について適当な案もなく過ごしてきたが，グルーは熱帯農業研究の分野の巨人であり，その人物と活動について知ることば，本会会員諸氏にも有益であろうと考えて，ここに「評伝グルー」の要点を紹介しておきたい．なお，評伝ではグルーの著書の一覧と引用された部分が記載されているが，ここでは一部を除いて省略した．また，大友氏の訳文の原意を損なわないように，多少簡略にした．この詳細な評伝を要約すると，「資料」としての意義は減殺される．また，歴史学と深い関係をもって発展してきたフランス人文地理学には，私たちになじみのない概念や議論が多い．しかし，人文地理学の問題として，熱帯，開発，文明といった問題にどのような論議がされてきたかをみることは，熱帯農業の研究者にとって，意義のあることと考える．