外固定により治癒した指伸筋腱断裂の黒毛和種牛の1例

摘要

畜産農家にとつて，腱疾患は生産性の低下や廃 用につながるため経済的に大きな損害となる.腱 疾患において治療の適用と予後判断は，重要な課 題であるが，伸指筋腱損傷に応じた適切な治療法 に関する報告はあまりない.今回，外傷により左 前肢指伸筋腱の部分断裂を起こし歩様困難な黒毛 和種牛に対して非観血整復術により良好な回復に 至ったので，その概要について報告する. 症例は県内の畜産農家で飼養されていた11力月齢の黒毛和種牝牛で推定体重は300kgであった. 平成22年3月に行われた家畜市場で繋留中に柵に 足をはさみ，その後左前肢の顕著な跛行を呈し た.無処置のまま経過観察をしていたが，跛行の 改善がみられないため地元獣医師の診察を受け， 事故後12日目に確定診断のため北里大学獣医学部 付属大動物診療センターへ搬送された.来院時， 左前肢跛行，歩行時に基節骨遠位の前方突出，同 部から繋周囲の腫脹が認められた.脱臼，骨折， 腱断裂を疑い，鑑別診断を行うためX糸泉検査と超 音波検査を実施した.