酵母：究極のモデル真核生物

摘要

酵母は菌糸を作らず単細胞で生育する真菌の総称で，分類学上は子嚢菌類から担子菌類にまたがる一千種近くの多様な種を含んでいる．植物の果実や樹液，動物の消化器から土壌，淡水，海水に至るまで広く自然界に棲息している．核やミトコンドリアなどのオルガネラを持ち，紡錘体により有糸分裂を行う真核生物である（図1）．有性生殖する酵母では接合と減数分裂による核相の交代がある．酵母の仲間はほとんどが出芽（budding）という独特の樣式で分裂するが，二分裂（fission）で増えるSchizosaccharomyces属もある．ヒトとの関わりで見ると，酵母はヒトに役立つ実用酵母，ヒ下に害を与える病原性酵母，そして生命研究に貢献する実験室酵母に分けられる．実験生物として最も重要な酵母は，出芽酵母（Saccharomyces cerevisiae; S. cerevisiae）と分裂酵母（Schizosaccharomyces pombe; S. pombe）である。 最近の分子系統解析により，両種は今から8億年以上前に分岐した可能性が指摘されている．"酵母"として一括りにされるが，系統的には遠く離れた種であり，これらを比較研究することが真核生物の本質に迫る有効な手段となる．