シナプス可塑性と運動学習を制御するD-セリン-δ2受容体シグナリング

摘要

D-セリンは脳内に豊富に存在しイオンチャネル型グルタミン酸受容体（ionotropic glutamate receptor ;iGluR)ファミリーに属するNMDA受容体のリガンドとしてシナプス伝達および記憶?学習の分子基盤とされるシナプス可塑性（シナプス伝達効率のR期的変化）を制御することが知られている~1). 2) .D-セリンは，海馬や大脳皮質を含む多くの脳領域において恒常的に存在する一方。協調運動や運動記憶?学習を支える小脳では． 生後発達期という限られた期間にのみ検出される~2), 3)そのため，発達期小脳において一過性に増加するD-セリンがいかなる機能的役割を担っているかについては大きな謎であった．最近，x W結晶解析による構造学的研究により，D-セリンが．iGluRメンバーであり，小脳神経回路の要衝を担う顆粒細胞軸索平行線維-プルキンエ細胞シナプスに選択的に発現するδ2型グルタミン酸受容体（δ2受容体）に結合することが示された~4). δ2受容体は，平行線維-プルキンエ細胞シナプスで観察される代表的なシナプス可塑性現象である長期抑圧（long-termdepression ; LTD）や小脳依存的な運動記憶?学習を調節する重要な分子である~5)しかし，D-セリンがδ2受容体に結合することの重要性については，まったくわかっていなかった． そこで． 今回筆者らは，上記疑問に答えるため，各種遺伝子改変動物と外来性遺伝子導入法を駆使し．実験を行った~6).