河川·汽水域における溶存鉄の挙動

摘要

北西太平洋の縁辺海に位置するオホーツク海は，生物生産性が高く，海水中の栄養塩が枯渇するまで植物プランクトンによる一次生産が持続する~（ 1,2））。この原因は，大気あるいはアムール川から供給される栄養塩とともに，微量必須元素の鉄の存在が指摘されている~（3））。栄養塩が十分に存在しているにもかかわらず，植物プランクトンの増殖が制限されている海域(HNLC海域）で鉄の散布実験を行った場合，植物プランクトンの急激な増殖が報告されている~（4,5））。鉄は植物プランクトンの光合成系や呼吸器系の電子伝達，クロロフィルの生合成，硝酸および亜硝酸の還元などに関与し，植物プランクトンの増殖に必要不可欠な元素である。オホーツク海表層海水中の溶存鉄濃度の平均値は26?à7ng/1と帯域の太平洋に比べて5倍程度高い濃度~（6））であり，栄養塩が枯渇しても十分量の鉄が存在している。