クラゲ類の生物·生態学[１]

摘要

海で，水族館で，雑誌で，テレビで，この美しく不思議な生物に出会った方は多いであろう。 ある人はその姿形に魅せられ，またある人はその遊泳する様に心癒されるのだが，この生物の面白さや有用さはそれだけではない。 多様性の理解は近年の生物学において重要なキーワードのひとつであるが，クラゲ類の形態や生活史パターンの多様性は驚くべき程大きい。 また，クラゲ類のもつ刺胞は刺細胞が作り出す細胞器官のひとつであるが，これほど禎雑にして精巧な細胞器官は他に例を見ない。 多細胞生物の中でも原始的な部矧二属する刺胞動物が，なにゆえにこれほど立派な細胞器官を作れるようになったのであろうか。 生態系における役割を考えた場合，クラゲ頸は代表的な肉食性動物プランクトンであるから，その捕食は他の生物群集に大きな影響を与えうる。 近年，日本近海各地でミズクラゲやエチゼンクラゲの大量発生がしばしば認められている。 同時に魚類資源量も減少しているのだが，クラゲ類は魚類の卵稚仔をも捕食するため魚類資源の回復は困難かもしれないとし、う。 クラゲ頬は，私達の生活にも密接な関わりがある。 中華料理の前菜としてクラゲ領はなじみ深いが，中国や東南アジア各国から輸入されるクラゲは年間1万トンを超え総額50億円程度にのぼる5）。 また，件のクラゲ大量発生が漁業被害を起したり発電所取水口をつまらせたり，厄介者の側面をもつ場合も少なくない。このように，生物·生態学的にさらには社会的にも注目を集めつつあるクラゲ類に関して，今日までの生物?生態学的研究結果をざっと眺めてみたい。