現代ブータンにおけるネイション形成：文化·環境政策からみた自画像のポリティクス

摘要

ブータン王国が存在するヒマラヤ山脈東端の地域において，現代ブータンに引き継がれる領域と人が外部からある程度のまとまりをもった存在として考えられるようになったのは，チベット仏教ドゥルック派の化身であるンガワン·ナムギャルがブータンを統一した17世紀以降のことである。 現在のワンチエソク王制は，1907年にこの時代の版図を引き継く形で成立した。 しかしながら，6，000メートルを超える南北の高低差に加え，縦横に走る山脈や尾根そして深く刻まれた渓谷と複雑な河川システムが国土を細かく分断するブータンでは，人々は個々のコミュニティことに隔絶された状況に置かれており，それが言語や慣習上の多様性を醸成する一方で，「ブータン民族」と言い得るような，ある程度の規模を有する文化的単位の形成を難しくしていた。