ナメクジウオに魅せられて

摘要

ナメクジウオの研究者を始めてから20年経つ.当初は絶滅の危機にある日本のナメクジウオを研究材料にするなどとんでもないという声もあったが,ともかくもナメクジウオの生息地調査から始めた.そしてナメクジウオはしぶとく生きていることを実証して水槽で飼育するまでに5年かかった.その時に新聞記者の取材を受けたが,まだ5年ですか,と言われ,話題にされることの意味が大いに気になった.また同時に,10年は石にかじりついて研究を続ければそのテーマの専門家になると大学の恩師に言われたことも思い出した.そしてナメクジウオの研究開始5年目からあっと言う間に10年目を通過し,生態調査から始まった研究も内分泌機構の遺伝子解析にまで進んだ.しかし,ナメクジウオのもつ脊椎動物の祖先であるという進化的意義の解明には及ばず,疑問点だけが残ることへの反省が増えている.とは言っても,ある動物を研究し続けてこられたことは,生物学者として幸運であったといえる.