大規模シミュレーションの産業応用：電力系統解析のためのシミュレーション技術

摘要

電力系統は多種多様な要素が多数複雑に絡み合って構成されている大規模システムである．図1に電力系統の概念図を示す．大きな単位でみても，発電所，変電所（電圧階級ごとに必要となる），開閉所，各要素を接続する送電線，配電線，周波数変換設備，直流送電設備および多様な各需要家等がある．さらに発電所ひとつとっても，タービン·ボイラ等の原動機，発電機，励磁装置，主変圧器，開閉装置（遮断器，断路器等）等から構成される．また，これらに関係する電圧，電流等の諸量を観測するセンサと，万一機器が故障した場合に，他の機器へ影響をあたえず，当該の機器を遮断器により適切に切り離し保護するための保護継電器がある．このような複雑大規模なシステムである電力系統においては，そこに生じる現象も多種にわたり，2章に詳述するように，時間スケールの幅もたいへんに広い．さらにほとんどの現象は，複数の要素の間の相互作用である．非線形特性をもつ要素も多い．このような電力系統の現象を解析検討する場合，理論式を用いた定性的検討はもちろん重要であるが，定量的な検討を行うためには，IT技術の力を借りた適切な解析ツールの適用が必須となる．ここでは電力系統解析技術として，まず系統解析手法の概要と分類について述べる．つぎに，系統解析ツールのいくつかについて簡単に説明する．さらに系統解析の感触を得ていただくために，簡単な解析事例を紹介する．