発明と特許物語 第3話 渡辺三郎,FW鋼と特許

摘要

渡辺三郎は日本の特殊鋼の生みの親のひとりである．明治のおわりにドイツに留学し，帰国後，日本特殊鋼合資会社（後に株式会社）を創業して日本一の特殊鋼製造会社に育て上げた．東京帝国大学の講師を長年つとめた学者であり，昭和12年（1937）には特殊鋼の進歩に貢献した技術者を表彰する日本鉄鋼協会の「渡辺三郎賞」を創設した．昭和15年（1940）に日本鉄鋼協会の会長に選出されている．渡辺の生涯は兵器産業に従事した期間が長く，戦後の混乱期に亡くなったため，その人となりはあまり知られていなかったが，戦後50年以上たって，野口幹世『存亡』と矢島忠正『特殊鋼の父，渡辺三郎』が出版され，世に知られるようになった．矢島は2004年に日本鉄鋼協会の『ふえらむ』に紹介記事を書いている．