〔新しい治療法とその試み〕Pre-emptive kidney transplantation（先行的腎移植）

摘要

非保存期end-stage renal disease（ESRD）の治療法として，腎移植は血液透析，腹膜透析と並ぶ血液浄化法の一つであり，水分バランス，酸塩基平衡の是正，すべての尿毒症物質の除去のみならず，内分泌学的にも是正をもたらす完全腎代償療法である。 しかしながら，わが国の特徴として透析療法が腎代償療法の第一選択となることが多く，腎移植がかなう場合でも，一定期間透析療法を経てから行われることが多い。 腎移植は周知のように拒絶反応抑制のために免疫抑制剤の使用が必須であり，易感染性，悪性腫瘍の発生，薬剤の副作用などが一定の割合で発生するが，透析療法による時間的制約，食事，水分摂取量などの制限からの解放や，特に小児においては身体的，精神的成長への貢献は大きい。 なかでも透析療法を経ずに移植を行ったpre-emptive transplantation（PET）の場合，その効果は大きく，さらに内シャント，腹膜透析カテーテルなどのアクセス作製の侵襲，美容的不利益，医療機関への時間的拘束による仕事，学業上の制約がないのみならず，透析を経た群より，移植腎の生着も良好であるとされる報告が相次いでいる。本稿では，PETのもたらす利点，欠点，および普及のための問題点などを概説する。