両側聴皮質·皮質下白質障害－とくに皮質聾と聴覚失認に関して

摘要

皮質聾は，両側半球の上側頭回中部のHeschl横回（一次聴覚野）の損傷により生じるといわれてる．しかし，この領域が両側半球で完全に破壊されても軽度の聴力障害しか示さなかった症例が報告され，一方，両側半球の皮質下白質の聴放線の破壊後に高度の難聴がみられた症例が報告されている．高度の難聴を示した自験2例と，一次聴覚野を含む広範な両側側頭頭頂葉梗塞にもかかわらず聴力がよく保たれていた1例のMRIによる比較検討と文献考察から，聴放線は内膝状体から被殻下方までは比較的密に走行するが，その後，被殻下方白質を走行する線維と，被殻腹側部と外側部を貫く線維に放散し，一次聴覚野とその周囲の聴覚連合野へ投射すると推察された．したがって，両側半球のこれらの投射線維のすべて，あるいは両側半球の聴覚関連領域がほとんど完全に破壊されたときに高度の難聴が生じ，部分的に破壊されたときには，純粋語聾（とくに両側一次聴覚野の破壊により）あるいは聴覚失認（一次聴覚野に加え，聴覚連合野の破壊により）の生じる可能性が考えられた．