ヘモグロビンの酸素平衡曲線の勾配- S字形曲線に秘められた意味を探る-

摘要

ヘモグロビンの酸素平衡曲線は特徴的なS字形を示し,その勾配は生体内での酸素運搬効率の指標となる。他方, S字性の強さは, Hillプロットの最大勾配(n_(max),Hill係数)で表わされる。 筆者らの解析によると,成人ヘモグロビンの酸素平衡曲線の最大勾配は50%酸素飽和度より低い38%で現われるのに対し,n_(max)は50%より高い酸素飽和度で現われる.したがって,Hill係数は酸素運搬効率とは無関係のようにみえる。 しかし,平衡曲線の最大勾配を与える酸素分圧をP_(dmax)とし,横軸(酸素分圧)スケールをP_(dmax)で基準化した平衡曲線の最大勾配はN_(max)のおよそ1/4となり, Hill係数と酸素運搬効率との間の一定の関係が認められる。 胎児ヘモグロビンの酸素親和封ま,血液の体内一循環による末梢組織への酸素輸送量が最大になるように設定されている。 それに対して,成人ヘモグロビンの酸素親和性は,安静時においては組織への酸素輸送に余裕をもたせるとともに,ボーア効果(酸素新別封こ対するpHの効果)を活用した酸素輸送量調節が最も効果的になるように最適化されている。