医療観察法の治療において精神病理現象をどのように活用するか-小精神自動症?要素現象に着目して治療が進展した症例を通じて-

摘要

抄録：本稿では，小精神自動症や要素現象として記述されている原初的病的体験から他害 行為の原因となる被害妄想を構築した症例の検討を通じて，医療観察法における妄想の治 療について考察を試みた。医療観察法の現場では，妄想の形成過程に認知の歪みを含む推 論が存在する場合，その修正を図る手法(認知行動療法）が採用されている。これにたいし て，妄想の形成過程における原初的な病的体験に着目して，その体験を治療者と患者が共 有することは治療的に重要な意義をもつことを指摘した。次いで，小精神自動症や要素現 象は容易には言語化されないが，その存在を想定しながら問診を行うこと，最終的に言語 化されなくとも，その存在を念頭におくことの重要性について述べた。最後には，病的体 験によって患者自身に生じる「苦の重圧」にかんする考察を行い，医療観察法にもとづく治 療において，「苦の重圧」を袁識した精神療法的配慮の必要性について論じた。