水素·燃料電池技術開発の現状と課題：水素燃料の時代はくるのか

摘要

温室効果ガス排出量の増大に伴う地球温暖化と、将来のエネルギーの安定供給が懸念される状況の中で、環境負荷が小さく、エネルギーの高効率利用ができる水素は化石燃料に代わる脱炭素エネルギーとして導入が期待されている。また、水素は水と太陽などの自然エネルギーから製造できるので持続可能なエネルギー社会を構築できる可能性を有していることに導入の意義がある。化石燃料から水素へのエネルギー転換を行うためには新しい技術が必要となるので、長期間にわたり燃料電池や水素関連機器の開発が行われてきた。その殆どが商品化の手前の実証試験の段階に留まっている。しかしようやく2007～2008年にかけて、北米では純水素燃料のバックアップ電源用燃料電池や燃料電池フォークリフトが商品化されて普及が始まった。最も期待の大きい燃料電池車は技術的課題を解決してコスト低減の課題だけが残されているが、世界の自動車各社は2015年から本格的な市場導入を開始することを2009年9月に共同発表した。また、幅広い技術の研究開発で世界をリードしてきたアメリカは最近になって研究開発のほかに、水素·燃料電池の普及支援を強化する政策を打ち出している。このように長年研究開発に終始していた水素と燃料電池は水素燃料の時代に向かってようやく動き始めたので、それらの状況を踏まえて水素社会の実現に向けての世界の最新動向を紹介するほか、長期的視野に立った水素社会構築への対応と課題について述べる。