ノーベル賞を受賞した「主婦」－20世紀中葉における女性科学者と科学の制度－

摘要

1964年のノーベル化学賞はイギリス人結晶学者ドロシイ·メアリ·クロウフット·ホジキン（Dorothy Mary Crowfoot Hodgkin：1910-1994）が単独受賞した．受賞理由は「X線回折法による重要な生体物質の分子構造の研究」で，授与式においてペ ニシリンとヴィタミンB_(12)の構造解明が特に顕著な業績として言及された．ここに至るまでの彼女の略 歴は表1にまとめた．科学と社会との関連を考察するのが「科学の社会史」研究であるならば，本研究 は「科学者の社会史」研究と位置づけられる．『科学 の社会史』において虞重徹は制度として確立した科 学に従事する科学者の条件を，高等教育（大学教育） を受けていること，専門学会に属していること，大 学等研究機関で研究をしていることの3点にまとめ た2）．では，この3条件にたいしてジェンダーはどの ように影響するのであろうか．本論文は現在（2015 年10月）までイギリス女性としては唯一のノーベル 賞受賞者であるホジキンに焦点をあて，20世紀中葉 における科学者をめぐる制度に関する問題をジェンダーの観点から考察することを目的とする．