『百科全書』における化学

摘要

『百科全書』とその周辺の化学については，近年Christine Lehman（クリスチーヌ·レーマン）とFrancois Pepin（フランソワ·ペパン）という二人の若手研究者を中心に，フランスでは大きな見直しがなされつつある．前者は2008年にVenel（ヴネル）（1723－1775）について初めての本格的な研究書（博士論文）を発表した．そこでは『百科全書』とは無関係になされたVenelの諸活動もサーヴェイされる一方，百科全書派としてもこれまで知られていなかった重要な事実が解明されている．Venelは『百科全書』に化学関係項目を多数執筆しただけでなく，第二巻の途中から実質的に化学項目の監修者の役割を果たしたこと，それゆえ，化学関係項目をリストアップし，それらの執筆者をリクルートして割り振り，出来上がってきた原稿をチェックして訂正したこと，ディドロ（1713－1784）同様に化学を手業や技芸と関連づけ，実践的で多様で総合的な学問と捉えたことなどを，彼女は明らかにしている．リクルート対象は母校であるモンペリエ大学の出身者や関係者であった．