西南日本沈み込み帯に発生する深部低周波微動

摘要

防災科研Hi－netの整備により，世界的に見ても比類ないほどの高密度で広域な高感度地震観測網が日本列島全域に展開され，微小地震に対する検知能力はそれ以前に比べると格段に向上した。その結果として，西南日本において非火山性の深部低周波微動が発見された。 この微動は，振幅の微弱な波群が長時間継続する現象であり，通常の微小地震で見られるP波やS波に相当する位相の検出が非常に困難である。 そこで，観測点間のエンベロープ波形の相関性を利用して，微動の検出及び震源決定を行う手法を新たに開発し，微動の時空間分布に関する調査研究を行った。その結果，深部低周波微動は沈み込むフィリピン海プレートの走向に平行に分布し，微動の発生源は固着域の深部延長である遷移領域付近のプレート境界，あるいはモホ面近傍に位置することが明らかになった。 微動は，いったん発生すると最長で数週間, 移動しながら長期間継続し，その発生にはスラブから脱水された流体が関係していると考えられる。 微動は，基本的には自然発生的に活発化するが，四国の数ケ所では再来間隔ほ異なるものの周期性を有することが時系列を詳しく解析することによって判明した。 また，四国西部で周期的に発生する微動に同期して，同地域でスロースリップイベントも発生していたことが明らかになった。 一方，近地地震，あるいは遠地地震によって微動が一時的に誘発される事例も数多く認められる。 これらの時系列的特徴は，微動を引き起こす流体が定常的に蓄積され，ある一定の条件に達した場合に微動が発生すると共に，微動発生の状態は非常に不安定で，トリガリングされやすい性質を有することを示している。 現時点では微動発生源の場所，特に深さに関する精度は十分ではないが，プレート境界面の可能性もあり，沈み込み帯における流体の移動や深部プロセスを解明するうえで深部低周波微動の解明は重要である。