脱炭酸にともなう土壌溶液試料のpH上昇

摘要

ポーラスカップを用いる従来の土壌溶液採取方法では，採取容器（フラスコ）内で脱炭酸が起こり，pHが上昇することが指摘されていた．そこでSuarezの方法に準拠して，ポーラスカップとフラスコの間に低容量の試験管をつなぎ，土壌溶液をフラスコ側に数回溢れさせることで極力脱炭酸が起こらない土壌溶液を採取できるように改良した．そして，この改良法および従来法を群馬県のスギ林土壌に適用し，両方法で1年間に採取した各22試料のpH（pH（tube）およびpH（flask））を比較した．さらに，土壌空気のCO_2分圧の観測値を用いて土壌溶液のpH（pH（cal））を推算し，p比（tubc）との異同を調べた．その結果，次のことが明らかとなった．1）pH（flask）ほpH（tube）よりも平均で0.29，最高で0.92高い億を示した．この差異は，溶存無機炭素の分析結果から，フラスコ内での脱炭酸に起因することがわかった．この結果から，改良法には脱炭酸にともなうpH上昇を抑制する効果があることが確認された．2）しかし，pH（tube）ほpH（cal）よりも高くなったことから，試験管試料においても脱炭酸によるpH上昇が起こったと推察された．両者の差はCO_2分圧が高い深部ほど大きくなり，深さ50 cmや100 cmではpH（flask）とpH（tube）の差に匹敵する値であった．3）試験管試料の採取過程における脱炭酸の割合を試算した結果，脱炭酸は4％程度であり，これによるpH上昇は0.02程度ときわめて小さいことが推察された．この結果から，試験管試料における脱炭酸は，主として採取後の試験管の取り外しやpH測定の過程で起こると考えられた．