地球温暖化が農林生態系に及ばす影響 3．大気CO2濃度，温度および水分環境の変化と作物の応答

摘要

いうまでもなく，CO2は地球上の緑色植物が行う光合成過程における最も本質的な物質である．しかし，人為活動によるCO_2を含む温室効果ガスの放出により，地球の気候変化が引き起こされ，気温上昇，降水量変化といった，作物が生長する場の環境が変わりつつある．この地球規模の環境変化に対する作物の応答は，特定の地域だけではなく，世界の農業生産を変化させるであろう．そのような環境変化の影響を予測し，対策を立てるためには，次のような基本的な問いに答えることから始める必要があろう．すなわち，作物は現在の環境にどのように適応しているのか？大気CO_2濃度および気温の上昇は作物の生長を促進するのか？ 作物の栽培にとって最適な環境条件は何か？ 環境の変化および変動は作物の生育、生長にどのような影響を与えるのか？ このような作物の環境応答に関する基礎的な知見を踏まえて，はじめて気候変化が農業生産に及ぼす影響とその対応策の評価を総合的に行うことができる．本稿では，始めにCO_2濃度，温度および水分環境の変化に対する作物の生理生態的機能の応答について概説する．次に，その基礎的知見に基づいて構築されたモデルを用いて気候変化の作物生産への影響評価を行った研究例について述べる．