博物館と生態学（17)自然史系資料の文化財的価値 一標本を維持し保全する理由一

摘要

この連載では、これまで生態学研究や生態学が深く関 連する環境行政や教育活動などに、自然史系博物館がど のように関連しているのかを執筆している。博物館の活 動の中心には、標本と学芸員の活動があり、展示や教育 普及、研究活動の源泉となっている。標本の存在が、単 なる展示施設と、研究機関としての博物館の本質的な差 でもある。博物館の標本が単に学芸員に活用されるだけ でなく、広く生態学分野で情報や研究資料として活用事 例があり、また更なる可能性があることはすでに鈴木(2007)力この連載においても記している。生態学会自由集会で発表された活用事例についても、奥田'陀安（2007)、 木村ほか（2004)として公表されている。標本一点一点 の価値は学術的活用が可能な点にあり、学術界には多く の実例が示されている（例えば松浦2010)。こうした解 析を可能にしてきた博物館の収蔵コレクション形成の背 景には、積み重ねられてきた過去の研究者たちの不断の 努力がある。そして同時に、地域を記録することに意義 を見出して博物館に収蔵機能をもたせるとともに、学芸 員が既存標本を学術活用しながら管理し新たな標本を収 集し、また博物館が私有の標本を引取り公的に保全する ことに、行政経費をあててきた社会の存在がある。