『現代アメリカ家族農業経営論』

摘要

本書ほ，共同体的組織の典型である家族という人間集団の経済的楼台酌こ関して，アメリカ農業の実態を基に総合的な評価を試みたものである．まず最初に，その共同体的組織の性質について復習しておきたい．市場経済の発展に関連して，政府を除く経済組織の形態は，共同体的組織と近代的組織に類型化され，両者は概して相対立するものとして扱われてきたようにおもう．すなわち，共同体組織ほ，市場経済の発展にとって障害にすぎず，すみやかに解体すべき対象だという観念を多くの人が抱いてきた．共同体的組織とは，古くは血縁や地縁，今ではさらに出身校や職場などを経とした濃密な人的交流によって形成され，同一の社会的規範や慣習等を共有する集団である．そこで，こうした共同体的組織の構成員には，利他主義や「自発的な自己拘束性」の行動原理が強く働くと考えられている．他方，近代的組織とは，所有権を割当てられた各個人が明確なルールの下で合理的に選択した契約に基づいて形成された人間集団にほかならない．ここでの人間は，他者を配慮することなく，あくまでも個人の富の最大化を追求し，利己主義や「ルールによる自己拘束性」の行動原理が優越すると想定されたきた．新古典派理論の市場競争モデルからみると，そこで扱われる人間は冷徹無比で合理主義の権化のような個人であり，その判断による利益追求を原理とし，かつその原理のみで社会秩序が形成されると考える．だから，他者への自発協調と集団志向性を特徴とする共同体的組織と相矛盾することになる．この観点から，血縁集団たる家族も地縁集団たる村落も，市場経済の発展にとって障害にすぎないと理解されてきたといえよう．