薬剤耐性菌の出現と鑭在化のメカニズム

摘要

近年，既存の抗菌薬のほとんどに耐性を示す多剤耐性菌 による感染症が世界的に拡大し，世界保健機構や各国の保 健当局が警鐘を鳴らしている1'2)。一方，製薬企業におけ る新しい系統の抗菌薬開発は停滞しており，このままでは ヒトの重症感染症治療に使える抗菌薬がなくなるのではな いかと危惧されている。薬剤耐性菌の問題に対する国際的 な意識の高まりを受けて，日本政府も薬剤耐性対策ァクシヨンプランを策定し，2016年4月に公開した3)。このな かには医療分野と畜産分野のそれぞれにおいて.2020年度 までの5年間に達成すベき具体的な数値目標が盛り込まれ ている。そのためか，最近，薬剤耐性菌の話題を目にする 機会が増えたが，新聞や普及誌などで薬剤耐性菌が「出現 した」あるいは「発生した」という表現をしばしば見かけ る。「出現」や「発生」は誤りではない力5.どのような過程 を経て薬剤耐性菌が顕在化するのかという部分が説明され ていないように思う。それは薬剤耐性菌に対する誤解を生 む可能性はないだろうカゝ。そこで，本稿ではいわゆる薬剤 耐性菌の出現から，それが選択されて顕在化するまでの過 程をなるベく 丁寧に解説したいと思う。また，抗菌薬を使 用する際の注意点についても考えてみたい。