牛IARS異常症

摘要

黒毛和種牛では，出生後に起立困難，哺乳欲の減退，沈鬱などの症状を呈し，虚弱子牛症候群（weak calf syndrome ： WCS)として治療される症例が少 なくない。その原因は不明なことが多いが，難産， 母牛の栄養状態，胎子期のウィルス感染，胎盤機能 の異常，遺伝的背景などが示唆されている''。黒毛和種においてWCSを起こす疾患として，ィ ソロイシルtRNA合成酵素（IARS)異常症が2013年 に平野ら2)により報告され，2014年4月からは農水 省の指定遺伝病となつた。IARS異常症の遺伝子診 断が確立して以降，①IARS異常症の臨床および血 液学的性状の特徴の解明，②WCSに関連する新規 遺伝性疾患の探索を目的に，農林水産業、食品産業 科学技術研究推進事業委託事業として.畜産技術協 会附属動物遺伝研究所，北里大学，東京農業大学， 岡山大学，岐阜県，兵庫県，宮崎県，鹿児島県， NOSAI胆江，NOSAI山形からなる虚弱子牛研究に 関わるコンソーシアムが結成され，3年にわたり虚 弱子牛の血液サンプルが全国から収集され，解析さ れた。当研究室に集められた黒毛和種の虚弱子牛症 候群（WCS)症例の約1/3がIARS異常症であり，そ れらの分析結果から判明したIARS異常症子牛における臨床所見と血液性状の特徴を中心に概説したい。