完全長cDNAの大規模解析とバイオリソ⊥スとしての利用: トランスクリプトーム解明からバイオリソースの整備へ

摘要

ゲノムプロジェクトの終了により，生物のトランスクリプトーム（生体で転写されているmRNAの全貌）が明らかになるのも近いと思われた．しかし，近年のFANTOM（1）をはじめとする大規模プロジェクトにより「RNA新大陸」が発見され，ゲノムに関する我々の認識も大きく変わった．この発見を支えたのは完全長cDNAライブラリーの作製とその大規模解析である．　 完全長cDNAとは，もとになるmRNAの転写開始点から転写終結点まですべてを含んでいるcDNAである．「完全長」とわざわざ呼ばれるのは，逆に言えばそれだけ，完全な形のcDNAの取得の難しさを表わしている．CDNAは逆転写酵素を使って人工的にmRNAから作製するが，逆転写酵素の活性が弱いこと，生体には強力なRNaseが存在するため，作製過程でmRNAの分解を招くことなどが原因で，完全長のcDNAを取得することば困難であった．しかし最近，いくつかの新しい方法が開発されてきている．