非天然型βペプチド：機能、分解、合成新規分解酵素の逆反応を利用した合成プロセスを開発

摘要

生命は化学と物理の法則に従うが，その化学は途方もなく複雑であるにもかかわらず，核酸やタンパク質といった巨大分子によって厳密に調節され，生命に特有な活動を可能としている．またその反応系は，人類が構築したどんな化学反応系よりも複雑なものであることから，我々研究者は生物，特に調節役を担っている巨大分子に学び，模倣して新たなものの創造を試みてきた．これら巨大分子は，一次構造に依存して自発的に非共有結合により折りたたまれ，機能性官能基を的確に配置しつつ安定化した固有の高次構造を形成して卓越かつ多種多様な機能を発揮している．このような「特定条件においてある特定の立体構造に折りたたまれる天然および非天然型オリゴマー（あるいはポリマー）」を総称してフォルダマーという．非天然型のフォルダマーは，主鎖構造の違いによって分類されており，βペプチドがその代表的な分子である．βアミノ酸の重合体であるβペプチド（図トA）は，天然に存在するαペプチドと構造的な類似性を有しながら特有の二次構造を形成し，側鎖や官能基の置換により構造や性質を変えることが可能である．そのためβペプチドは，αペプチドの材料としての長所を粍持しつつ，その「欠点」でもある易分解性を改良した材料として注目されている．ここでは，βペプチドの機能，およびβペプチドを分解する酵素とその応用例について紹介したい．