製造業のイノベーションにはつながらない米国紙パのM&A

摘要

米国の紙パ業界でM&Aが活発化している。市場が収縮するグラフィック系用紙分野からの撤退という後ろ向きの動機ばかりでなく、残された数少ないフロンティァである板紙•包材分野や高付加価値衛生用品分野での拡張を狙ったものでもあるという。本号『ワールドレビュー』には、「M&Aブームはこれからが本番だ」とする金融アナリストのコメントが紹介されているが、それは仲介·斡旋手数料で荒稼ぎしたいウォール街の願望でもあるのだろう。需要構造が大きく変化しているのは確かで、それに伴う設備·人員·拠点の再配置が必要なのも確かだろうが、投資ファンドにオーナーシップを譲り渡す事例が相次ぐ米国製造業の現実を見ていると、少なくともイノベーションを狙ったM&Aではないと思わざるを得ない。投資ファンドが1年後2年後もオーナーであり続ける保証はどこにもなく、より高く買ってくれそうな客が現れるまでの暫定的なオーナーにすぎないとすれば、そのもとで働く従業員は気の毒である。そういうオーナーのもとではQC活動や5Sシステムが成り立つはずもなく、したがってイノべーションも起こりようがない。