株価は好調でもアメリカンドリームの成功体験が減少する米国

摘要

NYダウ平均株価が最高値を繰り返し更新するなど好調な米国経済。しかし、その割に現状に対して不満を 感じている米国人が多い。米連邦準備制度理事会（FRB)のパーナンキ前議長は、その要因として①中所得層、 特に男性の生活水準の低迷②経済的•社会的な流動性の減少③経済的に疲弊した地域•階層に対する社会政 策の機能不全④前記①〜③による政治的疎外感や不信感の高まり、の4点を挙げている。特に②の流動性は米 国経済社会のダイナミズムを象徴する指標であり、ここでは例えばアメリカンドリームを実現(低所得層から 富裕層にシフト）する人が減少した、といった意味で使われている。さらに、この流動性減少では人口の移動 率も大きく関連していると報じられている。米国の人口統計によれば2015〜16年に引越しをした人の割合は 戦後最低の10.7 %と90年代後半の3分の2にとどまり、特に州境をまたぐ引越しは1.5 %と同時期の半分程度 に落ち込んでいる。その背景には、ニューヨーク周辺や西海岸などの都市部での住居費の高騰、州ごとに異な る職業資格要件の制約、移民や同姓婚などに寛容なリベラルな都市部と保守的な地方との価値観の相違など があると分析されている。つまり、産業の空洞化が進む地方に残る人には生活水準の向上のチャンスは限られ 貧困が固定化。一方で都市側から見れば、労働力の供給制約という問題に直面し、経済成長の阻害要因とな る。地方の疲弊した中低所得白人労働者層の支持を得て当選したトランプ大統領の「米国第一主義」がこうし た問題の解決にどこまで有効なのか、あるいは有効ではないのか、米国内にもさまざまな議論があるようだ。