サプライチェーンで「世界中がつながる」ことの良し悪しも問題に

摘要

前号に続き経済産業省が7月に取りまとめた『通商白書2020』の中から、その第Ⅱ部「コロナショックとグローバリゼーション」の第1章「コロナショックが明らかにした世界の構造」と題した分析を紹介する。この章ではコロナ禍によるサプライチェーンの寸断、機能不全という側面にスポットを当てており、その影響度を業種別に評価している。世界経済は21世紀に入り、至る所に張り巡らされたサプライチェーンの存在を前提にして動くようになった。これは、前世紀までとは異なる世界経済の大きな特徴と言える。世界が初めてその現実に気がついたのは、2011年の東日本大震災を通じてだったかもしれない。自動車部品の基幹パーツを世界中に供給していた福鳥県いわき市が深刻な被害を受けたことで、世界中の自動車工場が何らかの形で影響を受けた。しかし当時とは異なり、今回のコロナ禍でサプライチェーン寸断の起点となったのは1カ所だけではない。世界中にある無数のサプライチェーンが起点となり相互にネガティブな影響を与え合うことで、「大恐慌以来、最悪の経済危機」（白書）をもたらしたのである。こうなるとサプライチェーンで「世界中がつながる」ことの良し悪しも、ある意味問題になってくる。特に今回のような病原菌がもたらした経済危機にあっては、素早いデカツプリングの決断が結果的にサプライチェーンの回復を早める場合もあるだろう。コロナ禍が21世紀の人類と経済社会に突きつけた課題は、きわめて複雑かつ多層化している。