日本の「田園都市」創生から100年: その歴史的意味とこれから

摘要

1918年に渋沢栄一が田園都市会社を設立し100年が経過した。"日本の「田園都市」"を最も狭義に解すれば，1920年代に同社が五島慶太の目黒蒲田電鉄の鉄道整備（現在の東急目黒線）と一体的に連動させて「田園都市」と名づけて開発した洗足や田園調布（当時は多摩川台）といった優良な沿線住宅地と[1],その継承者である東急電鉄が戦後1950年代から70年代に田園都市線（旧玉川線·大井町線）を神奈川県内に延伸し，沿線に開発した5,000haにも及ぶ大規模な多摩田園都市[2]を指すことになる。しかし，本稿では，「田園都市」を固有名詞ではなく象徴的用語として捉え，さらに広く"日本の「田園都市」"として「鉄道事業者が都市鉄道路線や駅の整備と積極的に連動させて開発する優良な沿線市街地，もしくはそれに類するもの」と解して，その歴史的な意味と限界性，現代的課題と今後について論じることにする。したがって，「田園都市」は決して東京に限られる存在ではないのだが，筆者の知見の制約のため言及する事例が東京とその周辺に片寄ってしまうことをご容赦いただきたい。