高純度アルミニゥム上に形成されたバリァ型陽極酸化皮膜の比誘電率と欠陥に与える電解質の影響

摘要

アルミニウム電解コンデンサは陽極としてアルミニウムを使用し，誘電体として陽極表面に電解生成させた酸化皮膜を使用し，陰極として電解質を使用している。相対向する面積Sの並行電極板間に電圧Vを印加すると，印加電圧に比例した電荷Q_aが電極板に蓄えられる。蓄電される電荷Q_aと印加電圧Vの間には，Q_a=CVの関係があり，比例定数Cは静電容量と称される。電解コンデンサの静電容量Cは，C=ε_0ε_γS/d(C：静電容量，ε_0：真空の誘電率，ε_r：比誘電率，S：電極面積，d：電極間距離)で表される。電極面積Sが大きいほど静電容量が高くなるので，電解コンデンサ用の陽極箔には電解ェッチング等で拡面処理された高純度ァルミニゥム箔が用いられている。その表面には水和処理や陽極酸化処理，熱処理等を行うことにより，バリア型陽極酸化皮膜(以後単に陽極酸化皮膜)が形成されている。この陽極酸化皮膜の比誘電率ε_rが高いほど静電容量は高くなる。また，電極間距離dすなわち陽極酸化皮膜厚さが薄いほど静電容量が高くなる。陽極酸化皮膜の皮膜耐電圧当たりの厚さは，非晶質である場合よりも結晶性が高い場合のほうが薄いので，静電容量を高くするためには陽極酸化皮膜の結晶性を高くする必要がある。陽極酸化皮膜の特性は，陽極酸化処理に用いる電解質の影響を受けるとされている。一般的に，陽極酸化処理にはホウ酸やその塩などを含む無機酸系の水溶液や，アジピン酸やその塩を含む有機酸系の水溶液が用いられ，有機酸系の水溶液を用いた場合，ホウ酸やその塩を含む水溶液を用いた場合に比べて静電容量が高くなる場合があることが報告されている。この原因として，ホウ酸水溶液を用いた場合には陽極酸化処理時に結晶化が進み難いことから陽極酸化皮膜が厚くなることや，ホウ酸イオンが陽極酸化皮膜中に取り込まれることなどが影響しているとされているが，200 V以上の中高圧陽極酸化処理においてどちらの影響が支配的であるかにっいての研究例は少ない。本研究では陽極酸化皮膜の比誘電率に与える陽極酸化処理液の電解質の影響にっいて報告する。また，陽極酸化皮膜が結晶化する際には皮膜中に欠陥が生成するため，陽極酸化皮膜中の欠陥に与える電解質の影響にっいても報告する。