都市化の度合を惑わす「都市」の定義の多様性

摘要

国国連人口基金が刊行している、『世界人口白書』の2007年版では、「拡大する都市の可能性を引き出す」として、その冒頭で次のように述べている。「世界は2008年に、目には見えないながら、きわめて重大な局面を迎える。史上初めて、世界人口の半分以上にあたる33億人が、都市部で生活することになるからである。……中略……新たに都市に住む人たちの多くは貧困層となるだろう。都市居住者の未来、開発途上国の都市の未来、人類そのものの未来はすべて、ひとえにこの都市人口の増加に備え、今どのような決断を下すかにかかっている（家族計画国際協力財団『世界人口白書2007』）。確かに、かつては、世界人口の爆発的増加が大きな問題であったが、今日では、開発途上国における都市人口の急増と居住環境の悪化が大きな問題である。しかし、「世界人口の半分が『都市』に住んでいる」ということは、どの程度まで確かなのであろうか。筆者は、JICAの専門家として、タンザニア、カンボジア、インドネシアで統計局における国勢調査結果の分析などの支援活動を行った経験から、「都市」の定義には、国や地域（属領、自治領などを指すが、以下、まとめて「地域」と呼ぶ）によって大きな違いがあり、世界共通の統計上の「都市」の定義（以下では、単に「「都市」の定義」と呼ぶ）は設定されていないこと、各国の「都市」の実情は日本とは大きく異なることを見聞してきたため、『世界人口白書』のこのような書き出しには違和感を覚えた。そこで、2008年に開催された国際地理学連合のチユニス大会において、'What is "Urban" ： Urban Definition in Developing Countries'（大友篤と共著）と題した報告を行い、タンザニアとカンボジアの「都市」の定義を紹介し、「都市化」の度合がどのような地域経済•社会の変化につながっているのかということを明らかにした。その際に、世界各国の「都市」の定義を国連統計部の"Demographic Yearbook(以下、『国連人口年鑑』と呼ぶ）2005"を用いて整理した。本論は、その時の報告を出発点として、最新の資料を利用して、世界各国の「都市」の定義の現状を整理するとともに、いわゆる「平成の大合併」によって、多くの新しい「市」が生まれた日本の「都市」の定義について検討しようとするものである。