多面的尺度で考える空洞化

摘要

最近、我が国を巡って「空洞化」の懸念が再燃している印象がある。その大きな要因は、我が国貿易収支の赤字転落であろう。図1でも確認できるように、我が国の国際収支構造は近年大きく変わってきている。かって貿易摩擦が激しかった頃からは考えられないことだが、（モノの）貿易収支はもはや赤字に転じた一方で、サービスの貿易収支は入超が縮小したとはいえ依然赤字で、我が国は過去の海外直接投資からの収益に依存する国際収支構造になったようである。もちろん貿易赤字拡大の背景には、東日本大震災後の原子力癸電所停止による火力発電用燃料輸入の負担といった特殊要因もある力、為替レートがアベノミタスによって円安に修正されても貿易赤字が拡大していることから、産業空洞化に関心が集まっているものと考えられる。1980年代半ばのプラザ合意を引き金とした円高の時期にも産業空洞化が心配されたことがあったが、30年近く経過した今回は、より進行した深刻な段階ではないかとの懸念が持たれているようである。