絹糸へのスチレングラフト加工

摘要

絹糸の染色性，耐候性や吸湿性を改善するには，今から約60年前にわが国の独自技術として世界に先駆けて開発されたグラフト加工が有効な手段である.グラフト加工は，和服用の素材や帯地に応用される実用技術である.比較的に穏やかな条件で絹へのグラフト加工ができるというのが，この技術の特長である.しかも，加工のための大がかりな設備投資は不要であり，加工容器と加熱装置等の簡単な装置があれば，規模が小さい実験室でも絹糸への加工は可能である.加工容器に絹糸と加工薬剤を入れ，室温から所定温度まで温度を上げ，一定時間，試料溶液の温度を保持することでグラフト加工ができる.グラフト溶液に含まれるグラフトモノマーと重合開始剤が繊維内部に入り込み，繊維の中で重合する.これがグラフト加工の簡単な原理である.グラフト加工により絹糸には耐候性や防しわ性が付与される.絹糸内部で重合したグラフトポリマーは，どのような形態として絹糸内に充填するのであろうか.