住宅建築時における投入資材のCO_2排出量の評価において バックグラウンドデータの利用によつて生じる誤差 建築物のLCAにおける評価精度の検討

摘要

本研究では、建築物のLCAを実施する際に用いるバックグラウンドデータについて検討を実施し、以下の内容について明らかにした。1)(一社）日本建築学会のバックグラウンドデータベース（AIJ-LCA) と（独）産業技術総合研究所等のバックグラウンドデータべース（IDEA)のCO_2排出原単位を比較し、同じ対象の原単位であつてもそれぞれのバックグラウンドデータベースで値が大きく異なることが分かった。また、両バックグラウンドデータベースにおける原単位の値の比も、大きくばらつくことが明らかになった。平均的にはAIJ-LCAのほうが大きくなる傾向にあることが分かった。2)事例住宅8件（木造6件、S造1件、RC造1件）ではあるが、それぞれの建築時の資材の製造に伴うCO_2排出量について、両バックグラウンドデータベースで算出した。その結果、一般的な結果としての言及は難しいが、少なくとも8件の事例の中で、最大で1.5倍程度の差異が生まれる結果となり、バックグラウンドデータべースの混用時は、評価結果の解釈に十分な注意が必要であることを示した。3)住宅のCO_2排出量の分析において、バックグラウンドデータの品質が評価誤差に及ぼす影響について分析した。バックグラウンドデータ作成時の誤差をPedigree Matrixを用いて検討したところ、IDEAよりもAIJ-LCAのほうが、誤差が若干小さくなる傾向が見られた。またバックグラウンドデータ利用時の誤差（変動係数Cv)を適合性の評価手法を用いて分析した結果、圧倒的にAIJ-LCAの誤差が大きくなった。4)住宅の評価を実施する場合に、バックグラウンドデータ作成時と利用時の誤差が大きかった資材を抽出し、両視点で優先的に品質を改善すべき項目を明らかにできた。加えて、バックグラウンドデータ作成時の誤差について、それぞれの項目ごとに誤差を生じさせ る要因について分析した。多くのバックグラウンドデータは、特にバックグラウンドデータの信頼性•時間的有効範囲を改善することが重要であることを示した。本検討は、住宅8事例について、建築時の投入資材の製造に伴うCO_2排出量を分析するにとどまつている。今後、一般性を持って議論するためには、分析対象数を増やすことが重要と考える。また、施工 •運用•改修•解体•廃棄などライフサイクルを通した分析も重要だろう。さらには、CO_2排出量だけではなく、他の環境負荷物質の誤差分析なども重要な視点となると考える。